青年海外協力隊からマッキンゼー入社、NPOを創業するまで 【対談:小沼大地×米倉誠一郎 ー中編】

前編では、米倉先生や小沼さんの考える学生時代にやるべきことの話や、小沼さんが青年海外協力隊に参加するまでを語っていただきました。中編では、小沼さんの人生に大きな影響を与えたシリアでの活動から、なぜコンサルタントを目指し、NPOを立ち上げるに至ったかを語っていただきます。

悪だと思っていたビジネスが「最善」になった

米倉 それじゃあ青年海外協力隊のことを聞いていこうか。シリアに行って学んだことは何だった?

小沼 「ものさし」について、だと思います。たとえば日本だと、学歴、年収、就職偏差値などといった上下関係の「ものさし」が存在しているようなところがありますよね。でもシリアでは、自分がこれまで使っていた「ものさし」が全く通じませんでした。

経済的な指標では日本社会の方が当然優位ですが、幸せや精神的な豊かさといった「もう一つのものさし」で測ると、シリアの方が圧勝だったりするんです。世の中には絶対的な「ものさし」は存在しないということ、そして自分にとってしっくり来る「ものさし」を持つことの大切さを思い知りました。

米倉 なるほど。僕もバングラデシュのとある農村に行ったとき、農村の人々が「私たちはあなたたちが来るまで、自分たちが貧しいだなんて知らなかった」ということを聞いてハッとしたよ。家電や自動車を持っていれば、物質的に豊かならば裕福なのか?毎日笑顔で過ごすことが重要である社会やコミュニティに、外からの尺度(ものさし)をもってきて、貧困だというのは先進国のエゴなのかもしれないと思ったんだ。
他にはどんな刺激や気づきがあった?

小沼 僕はシリアで現地の小学校向けに環境教育のプログラムを起ち上げる活動をしていたのですが、同じチームに戦略コンサルティング会社のローランドベルガーから2名のドイツ人コンサルタントが出向していました。

彼らはビジネススキルを使って現地のNPOが抱える課題を次々と解決していくとともに、現地の人たちに直接的に貢献できる実感からか、徐々にすごくイキイキと働くようになっていきました。ビジネスと社会貢献の世界が交わることで、色々なポジティブな変化が起きたんです。

自分は社会学部だったこともあって、どちらかというと金儲けやビジネスは悪だと思っていましたが、社会の課題を解決したいという強い想いと、ビジネスの力が交わることで、社会に大きなインパクトを与えることができるのではないかと思うようになりました。

米倉 僕も全く同じで、昔は資本主義が悪だと思っていたけど、ビジネスの可能性を知ってから、両者の融合によって社会に貢献できると思ったね。それなら当時すでにビジネスと社会貢献の世界の架け橋として、NPOを立ち上げることは考えていたということ?

小沼 ぼんやりとした想いはありました。ただ、自分は社会貢献の世界にいただけで、ビジネスのことは何も分からない状態だったので、次はビジネスの世界で経験を積みたいと思いました。そこで「ビジネススキルを身につけるためにはどうすればいいか?」をドイツ人コンサルタントに聞いたら、コンサルティング業界を勧められたというわけです。そんな単純な経緯でコンサルタントを目指すことになり、帰国後はマッキンゼーに入社することになりました。

米倉 マッキンゼーにはもともと辞めるつもりで入ったのかもしれないけど、ビジネスの世界はどうだった?

小沼 確かに3年で辞めると宣言して入社したんですが、仕事自体はすごくやり甲斐もあって、コンサルタントとしてすごく充実した日々を過ごしていました。また同僚たちも多様な人たちばかりで、研究、運動、趣味などなど、何かしらの分野で突出した才能を持った人たちが集まっているような集団で、毎日がエキサイティングでした。

結局マッキンゼーは3年で卒業したのですが、2年目の半ば頃にアメリカに半年間行く研修があって、そのときにサンフランシスコ(SF)に行きました。SFはNPOのメッカであり、僕がシリアで感じていたことを体現したようなNPOがいくつもありました。

たとえばSFに本拠地を置く「Taproot Foundation(タップルートファウンデーション)」というNPOは、NPOの世界とビジネスの世界の橋渡しを事業にしていました。特定のスキルやリソースがなくて困っているNPOに、ビジネスプロフェッショナルがお金ではなくスキルで一定期間貢献するという「プロボノ(Pro Bono)」と呼ばれる活動を促進している団体です。

このプロボノと青年海外協力隊の仕組みが合わさると新しい動きになるかもしれないと思うようになり、自分でもビジネスプランなるものを書くようになりました。おぼろげにも起業というキャリアを意識し始めたのは、この頃からだったように思います。

 

NPOの創業
「先生には”勇気”という武器を貰いました」

 

米倉 なるほど。起業は一人でやるか皆でやるかってあるよね。メンバーは集まっていたの?

小沼 僕が会社勤めを始める頃に、大学時代の友人たちや社会問題に興味のある若手社会人を集めて「コンパスポイント」という団体を立ち上げ、定期的に勉強会を開催するようになっていました。もともとこの団体を立ち上げた理由は、先に就職した友人たちが学生時代や入社時に抱いていた「大志」や「目の輝き」が霞んでいるように感じたからでした。

なので団体のコンセプトは「情熱の魔法瓶」。社会人になって、働いているうちに意識から遠のいてしまいがちな自分の「原点」や「軸」を再確認しながら、情熱を温め続けるという意味です。

また、コンパスポイントというのは円を描くコンパスの中心の軸のことです。ついついキレイな線を書けるようになることに夢中になりがちですが、軸を見失ってしまったら円を描くことはできません。コンパスポイントは、自分にとって大切な軸に立ち返る場所であり、ある意味では周囲に流されそうになる自分を律するための場所でもありました。

米倉 いいネーミングだねえ。自分の弱い部分を律する装置をつくる。自分の原点を知るというのは大事なことだよね。それでいつ創業したんだっけ?クロスフィールズを始動した当初、企業側は最初人材を出すのに躊躇いとかなかったのかな?どうやって信用を勝ち取っていったの?

小沼 クロスフィールズを創業したのは2011年の5月でした。20代後半の若造たちが立ち上げた団体だったので、信用もなく、企業と商談をしようと思っても、最初はまったく振り向いてもらえませんでした。そこで考えたのが、まずは専門家や著名な方に応援してもらって信用度を高めることです。ビジョンという青臭い旗を思い切り掲げ、とにかく理解者・共感者を増やしながら企業への営業活動を続けていましたね。

そして2012年の初旬に米倉先生との出会いがありました。実は先生とは面識もなく、緊張しながら研究室のドアを開けたことを覚えています。僕は先生に自分がやりたいことを思い切り話し、先生はウンウンと頷きながら話に耳を傾けてくださって、応援の言葉とともに沢山のアドバイスをくれました。

終了後、興奮冷めやらないうちに、僕は思い切って先生に特別顧問への就任を打診しました。初対面の若造からの依頼にどんな返事が来るのか分からずにドキドキしていましたが、メールに記されていた答えは「YES」でした。そして、メールにはこんな言葉も添えられていました。

「君がやろうとしている事は、未来をつくる事そのものだ。僕の名前も肩書きも組織もフリーウェアだから、自由に使ったらいい。若者の役に立ってクビになるなら本望だ。」

実績もない、何をしでかすかも分からない若者の挑戦に、立場のある先生が最高のお墨付きを与えてくれたんです。創業当初の僕たちにとって、これがどれだけ心強かったことか。。。。僕の人生の目標は「誰かの人生に影響を与えること」ですが、米倉先生はそれをまさに体現されている方だと思います。

また、このプロセスを通して、私心のない青臭さは人を動かすことができるのだと実感することができました。ある意味、先生からは勇気という武器を貰ったような気がしています。

米倉 あはは(笑)。嬉しいことを言ってくれるね。うちの大学は田舎にあって、閉鎖的な部分もあるけど、その一方で少数精鋭で縦の繋がりも強いから、密接で有用なネットワークを持っているというのはすごいアドバンテージだと思う。そうしたネットワークを使いながら、小さいサークルを大きくしていき、人を動かす時に大事なのがビジョンなんだろうな。

それで今やってるのは「留職」だよね?いまはどれくらいの企業が導入してくれてるの?

小沼 基幹事業である「留職」プログラムは、企業の社員が新興国のNPOや社会的企業に一定期間赴任し、本業のスキルや経験を活かして現地の社会課題の解決に挑むプログラムです。現地での社会課題解決に貢献するとともに、企業にとっては、グローバルに活躍できる次世代リーダーを育成できるというメリットがあります。

留職は、今現在(2017年1月時点)で30社以上が導入して下さっていて、昨年(2016年)までに110人のビジネスパーソンをアジア新興国の社会課題の現場に送り出してきています。

米倉 活動の輪はどんどん広がってるみたいだね!

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中編では、小沼さんが青年海外協力隊に参加して経験からビジネスと社会貢献の世界の架け橋となることを考え、その後コンサルタントとなりビジネススキルを身につけ、NPOを立ち上げるまでと立ち上げ後、どのように活動を広めてきたかを語っていただきました。後編は、米倉先生や小沼さんのビジョンや学生へのメッセージを語っていただきます。これは必見です。

<後編へ>

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