就活をするリスクもあるということをあえて言いたい 【対談:小沼大地×米倉誠一郎 ー後編】

前編では小沼さんと米倉先生の考える大学時代の過ごし方、そして小沼さんがなぜ青年海外協力隊に参加しようと思ったかを、中編では、青年海外協力隊やマッキンゼーを経て小沼さんがビジネスと社会貢献の世界を繋ぐためのNPOを設立し、その活動を展開するまでを語っていただきました。そしていよいよ後編です。お二方のビジョンや学生へのメッセージを語っていただきます。

時価総額は過去の実績ではなく、「未来の価値」を反映したもの

米倉 僕は留職のような活動を経た人々が本当に日本を変えていってほしいと思う。20年前に一橋イノベーション研究センターは設立されたんだけど、その20周年記念にイノベーション研究センターの機関誌『一橋ビジネスレビュー』で「これからのイノベーション研究の20年」という特集を組んだ。そこで調べて残念だったのは、日本は本当にイノベーティブになったのか?と問われると、全然変わっていないことだった。

時価総額ランキングで見てみると上位に入ってるのはトヨタ自動車や3大銀行に加えて、電電公社だったNTT、NTTドコモ、専売公社だった日本たばこ、郵政公社だった日本郵政とゆうちょ銀行などで、日本をリードする企業の顔ぶれが20年前と変わっていないどころか、後退している。

それに比べアメリカのトップテンには、アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックなど、新しい企業が次々と台頭している。

たとえばフェイスブックは現時点(2017年1月時点)で、時価総額世界ランキング6位。世の中に出た当初はビジネスとして成り立つのかと思われたものが、今や世界のプラットフォームになっている。日本のITやエレクトロニクス企業はどこに行ってしまったのだろう。

確かに、日本企業は取引相手や目的が明確なBtoBで長期的な関係を築きながら、改善していくのが得意なスタイル。だから色々な人を相手にするBtoCで覇権を握るのは難しいかもしれない。

しかし、そもそも挑戦しないとプラットフォームなど獲れっこない。だから海外に広く目をやり、例えばアジアやアフリカのBOP(Bottom of Pyramid=貧困層)ビジネスのプラットフォームを創ってやろうといった企業が日本から出てきてほしいね。

小沼 先生の仰ることは分かりますが、僕は時価総額が高い企業を作ることに貢献したいというよりも、ユニリーバやGEのように社会の持続性への貢献と経済的な成長とを両立する企業が増えていくことに貢献したいと思っていますが、、、

米倉 いや違うんだよね。時価総額という概念の本質を理解しないといけない。時価総額は「未来」の価値を反映するものなんだ。アメリカの時価総額ランキングを見ると、将来の期待値が現在価値に反映されている。

それに対して日本の時価総額ランキングは将来ではなく現在の価値、つまり過去の実績を表している傾向が強いんだ。だからどの会社が未来を創っていけるのかという視点で見た時に、アメリカの会社に期待を感じるわけ。すべての人がPCを手にする未来を描いた、かつてのスティーブ=ジョブズのようにね。

だから、さっきも言ったようにクロスフィールズのプログラムに参加した人たちが未来を創造していくような主体になってほしいな。

小沼 なるほど。それはもしかしたら時間軸の違いとも考えられるかもしれません。長期的なビジョンに基づいて、短期的な利益を追求する資本主義の論理とは全く違う行動原理で動いているのがNPOです。だからこそ、企業がNPOと一緒に色々やっていくことが大事なのかなと。企業にしろNPOにしろ、10~20年後を見据えたときに意味のある活動とは、社会課題を解決することでしかないと思っているので。

米倉 そうだね、企業もNPOもそういう担い手だ。たとえば、日本企業のリクシルはアフリカやインドでトイレ設備が不十分で、不衛生な環境下で命を落としている子供たちのため、プラスチック製の簡易式トイレ「SATO (Safe Toilet/安全なトイレ)」を提供することで、問題を解決しようとしている。

しかし、欧米の消費財企業なんかが、アフリカなどの途上国にもどんどん進出しているのに対し、日本企業はリスクを嫌って渋っているところも多いと思う。このままだとその差はどんどん広がるばかり。今いかないと一生距離は縮まることはない。先手を打って、社会をよくしていくことが大切だと思う。

とはいえ企業の構造の問題や、細分化された業務をこなす多忙な日々に、若い企業人のモチベーションがなかなか長続きしないこともあると思うけど、それはどう考えてる?

小沼 そうですね、残念ながら何かが一気に変わることはないと思います。僕としては、若い世代から企業をボトムアップでジワジワと変えていって欲しいと思います。ただ、その変化を少しでも早めるためにも、僕が米倉先生と出会ったように、企業の中で情熱ある若手とシニア層がタッグを組むような動きに期待しています。最近はクロスフィールズでも、企業の幹部人材向けのプログラムにも取り組み始めました。

米倉 なるほど、企業の中にチェンジエージェントをつくる試みだね。日本ではシリコンバレーのように投資家、起業家、大企業、大学・研究機関などの間で、ヒト・モノ・カネが循環して新しいことを生み出していく、というのが今のところはあまりうまくいっていない。

そこで、日本でもシリコンバレーの模倣版を作ろうと話がある。しかし、あのようなエコシステムの集積には時間がかかる。それならば、日本の優秀な人材は直接シリコンバレーに行くようになればいいと思うようになった。

ただ、そうした優秀な人材がなかなか大企業から出てこない。僕の仮説では「日本の企業が利益率に拘らないから」だと思う。逆説的だけど、利益率をあげるには、選択と集中を行って、会社をスリム化して、デトックスすることが大事。

今の日本の企業には人の流動性がない。その理由は、小さなリストラで目先を誤魔化しているからだと思う。小手先のリストラを止めて、本当のリストラクチャリング(構造改革)をやり、時価総額や利益率にこだわるようになれば、優秀な人から辞めていく。

シリコンバレーなどでは、大企業を辞めて起業している人も多くいるし、そういう人たちが素敵な会社を創っている。だから、技術力と野心をもった大企業の中のアントルプルヌアが独立して、海外に挑戦するようなストーリーが出てきてほしいな。三菱重工の優秀なエンジニアが一橋出身の三菱商事社員と組んで、インドネシアでミニグリッド(省電力発電)企業を起こすとか、そんなストーリー。

 

「就活をすることで失うモノもある」「30歳から本当の人生は始まる」


ー最後に学生へのメッセージをお願いします!

米倉 僕が学生諸君に言いたいのは、22・23歳で自分の一生なんて分かるわけないんだから、まずどこでもいいから4-5年くらい一生懸命に働く。そして「就社」ではなく自分の専門性を生かす「就職」をして、自分の武器を身につけるということ。

学生時代に何かに熱中して、小沼くんの言うような閾値を知る経験がなかったとしても、どんな企業でも仕事でがむしゃらに働いて閾値を知ればいい。そうすれば自分のことが分かってくるから、その適性に合った大学院に行ったり、転職したり、NPOに参加したりすればいいと思う。30歳から本当の人生が始まると思って、20代はエクスプローラーでいいんじゃないかね。

小沼 僕が伝えたいのは就活をしないという選択肢もあるということです。僕は就職をせずに青年海外協力隊に参加したりして、大学には7年間もいました。普通に考えたら信じられないような遠回りですが、振り返ってみると、むしろ結果的に短期間で自分が本当にやりたいことに到達することができた気がします。

人生は長いです。1年や2年程度の遠回りは全く無駄ではないし、それが人生を豊かにすることもあります。就活に邁進する人たちを否定するつもりは全くありませんが、僕が青年海外協力隊に参加したように、新卒で会社に入る以外の選択肢も世の中にはあるということを、少しだけ考えてみて欲しいです。

それに、就活をするにしても様々な選択肢があります。大企業の人気ランキングという指標は、あまり参考にしないほうがいいと僕は思っています。人気ランキングは「いまの時代の人気」で決まっています。これから未来を創っていくようなエキサイティングな組織は、現時点では評価されていないので、ランキングには入っていません。ぜひベンチャー企業やNPOという選択肢も含めて、自分がこれからどんなチャレンジをしたいかを軸にして、広い視野で大胆に進路を考えて欲しいです。

ーどうもありがとうございました!(終)

 

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