「未知の問題に対処できる研究者が必要」頭脳の海外流出により日本はどうなる? 一橋大学経済学研究科 川口 康平先生 <後編>

前編では、教員の研究環境をテーマに、日本の大学には「研究と教育とマネジメントの分離」が必要、というお話でした。後編では社会科学研究の必要性を軸にお話を伺います。

 

〜日本の研究実績の現状〜


ー現在の日本の研究者や論文の状況はどのようになっているのでしょうか?

川口 「研究者の数は減ってはいないものの新規が頭打ちになっています。論文数は横ばいですが、他国が増加していることで相対的には減少しています。この現状は非常にまずくて、こうしたらこの問題が解決するか、というアップサイドが見えてないのでジリ貧ですね。」

 

〜危うくなる、社会問題への対応〜

ー取材前より危機感が強くなってきました…例えば国内研究が十分になされなくなったらどのような問題が発生するでしょうか?

川口 「社会で発生する種々の問題に対応する力が落ちることは考えられます。
教育と研究の二つの側面から説明すると、教育の面では例えばデータを解析して問題の所在を特定することができる人材を大学・大学院で育成し、社会に供給・配置していかないと個別の問題に対応できなくなります。優れた研究者がいないとこうした人材の育成も難しくなります。

研究の面からいうと、既存のやり方で対応できない新たな問題が発生した時にいち早く解決に向けて取り組めるのは、目の前のニーズから一歩引いて新規性と普遍性のある研究を日頃から行っている者たちだと思います。こうした集団が社会に存在しているのは大事なことだと思います。

日本の社会科学の論文には「A国、B国、C国でこうした研究がされているのに日本ではされていない、だからやる」というようなスタンスのものが多く見られます。これらは他国の研究者が問題を認識し提示した答えを日本の文脈に当てはめているだけで、主体的に問題を発見し、解決しているわけではありません。」

 

〜改革案:一橋大学私立化?〜

ーそうなると、やはり大学経営のあり方を転換することが必要なのかなと思います。先日拝見した、先生の「一橋大学は私立化したらどうか」というようなツイートも面白いと思いました。

川口 「元々一橋大学は民の組織でしたしね。私立化して授業を最低年150万円ほどにする。もちろん家庭のインカムが低かったり、成績の良い学生には奨学金を出すとして、こうすることで経営の自由は飛躍的に高まるでしょう。」

 

〜川口先生が残したもの〜

ー日本の研究環境を変えるとしたら、それくらい思い切った方法しかないのでしょうか?

川口 「いや、現場レベルでできることはたくさんあると思います。
僕が一橋で手掛けた例で言うと、セミナーの組織化を若干推し進めたことですね。経済学ではセミナーを開き、外部や他国の研究者を招聘して最新情報にキャッチアップしたりということが大切なのですが、以前は個々の研究者が各々の予算を用いて分権的に招聘していました。その仕組みだと研究費の少ない若手が研究者を招聘するのは難しくなります。そこで有効活用されていない予算をある程度まとめてその予算を用いて若手が外部から研究者を招聘できるようにしました。
また、一橋内部で週一でランチセミナーを開いて書きかけの論文などについて意見交換をする場も設けました。こうした中から新たな動きが生まれてくると思います。」

 

〜フラフラしてもいいんじゃない?30才くらいまでは〜

ー問題の解決に向けて、できることはまだまだありそうですね。
最後に、一橋生に向けて学生時代を過ごす上でどんなことを考えるべきか、どんなことを身に着けるべきかお伺いしたいと思います。

川口 「正直言うと、人に聞かずに自分で考えるべきだと思います(笑)。というのも、僕は若い人の判断は、知識に基づく部分以外では、年を食った人の判断よりも正しいと思っているからです。なのでアドバイスはしたくないんです。
自分にできるのは選択肢の提示ですね。例えば院に進むことを考えていなかった人に「データ分析できるとこんなことができるよ」ということを伝えたり「海外Ph.D.を取得すると社会の色んなところに行く切符が得られるよ」ということを伝えたりする。こうした選択肢とそれに関する情報、可能性の提示はできますが、その中から何を選び、何を目的にするか、については干渉したくないし、するべきでないと思います。

色々と迷うとは思いますけど、30歳までは色んなことやっても取り返しがつくので、あんまり不安にならずに今できることを精一杯やればいいんじゃないでしょうか。東大の頃の同期で当時フワフワしてた連中、起業するといったり劇をやるといってた人たちもちゃんと形になってるんですよね。今ブイブイ言わせてるベンチャーの社長になってたり新進気鋭の劇作家になってたり。

東大や一橋に来てる学生ならある程度のインテリジェンスがあるはずなので30歳くらいまでにはどんな分野であれある程度形になってるんじゃないでしょうか。結局、その自分の可能性を信じてやっていくしかないのかなと思います。」

 

編集後記

取材を通し、ご自身の問題意識を見据え、考えを明快に説明していく話し方やその中で時折挟まれるユーモアが印象的でした。また、自分の頭で考えること、それに対し自信を持つことの難しさと大切さを感じました。Ph.D.を取ることを全く考えていなかった人も、一度想像を膨らませてみると面白いかもしれませんね。(江波戸)

下の写真は取材後のインタビュアー2人ですが、興奮冷めやらぬ様子です(笑)。特に今回取材同行キャンペーンで参加いただいた八木さんは以前から川口先生のファンだったとのことで、非常に積極的な取材をしてくれました!

 

取材同行キャンペーンは今後も行われる(かもしれない)ので、ふるってご応募ください!

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