好きなことは仕事にすべきか、趣味にすべきか。本とともに生きる一橋OBに聞いてみた。 【ブック・コーディネーター、本屋B&B経営 内沼晋太郎 後編】

 

前編では、今のお仕事の源流とも言える学生時代の活動のお話や、第一志望で入社した会社を2ヶ月でやめた理由をお聞きしました。後編では、退社後のお仕事について、そして「好きなことを仕事にすべきか、趣味にすべきか」など、仕事に対する考え方に迫ります!

1つひとつの仕事が積み重なって、今がある

―会社をやめた後は、どのようなことをされていたのですか?

内沼 まずは、「ブックピックオーケストラ」という古本ユニットを立ち上げて自分たちで作ったサイトやイベントで古本を販売しながら、千駄木の「往来堂書店」という本屋でアルバイトを始めました。並行して運転手やDTPのオペレーター、テレアポなどのいろんなアルバイトをしながら、フリーでウェブサイトやフライヤーのデザインなどをしていました。

参加した古本イベントを偶然見ていた、アパレルのお店を立ち上げようとしている人が、僕に本のセレクトを依頼してくれたのが1個目の仕事で、そこから本を選ぶ仕事が増えていきました。他にも原稿の素読みや文字起こしといった、本と関係する細かい仕事を少しずつもらえるようになったり、無料のメールマガジンで連載させてもらっていた原稿が元になって単著を出してもらえることになったり、そういうのがどんどん積み重なっていき、今に至るという感じです。

―現在のお仕事は、本のセレクトのお仕事が中心なのでしょうか。

内沼 売り場の本や、閲覧用の本を選んだり、その売り方や仕入れ方を考えたり、来る人にどう手にとってもらうか考えたりする仕事からスタートして、それは今も続けています。

けれど徐々に、大手のCDチェーンが新業態として書店を立ち上げるとか、行政が直営のセレクト書店をはじめるとか、難易度の高いプロジェクトのアドバイザーやディレクターなどの仕事が増えてきて、そちらの比重も大きくなっています。それと並行して、自社事業として、下北沢で「本屋B&B」という新刊書店と、「NUMABOOKS」という出版社の経営をしています。

―「本屋B&B」を始めたのには、どういった経緯があったのでしょうか。

内沼 B&Bを始めたのは2012年ですが、最初のきっかけはその数年前に、博報堂ケトルの嶋浩一郎さんと知り合ったことです。仲良くなって、仕事も振ってもらえるようになって。

そして、2011年の夏か秋ぐらいに嶋さんに「内沼君、本屋やらないか」と言われたんです。僕は嶋さんから誘われたら断らないと決めていたし、書店経営をいつかはやりたいと思っていたから、「やります」と言って、始めたのがB&Bというお店なんです。

書店B&Bの様子

「続けた人」が想いを実現する

―22歳で会社を辞められて、いろいろなところに顔を出したり、いろいろなお仕事をされる期間があって、今、「本と人との出会いの場を作る」という最初に抱いた想いを実現されていますよね。想いがあっても、達成できる場合とできない場合があると思いますが、その違いは何だと考えられますか。

内沼 「続けた人がなる」というだけではないでしょうか。一定の才能という要素もありますが、よほどの天才以外は努力するのは当たり前で、大抵の人は才能などなくてもやっています。勉強したり経験を積んだりしながら、なるべくいろんな現場に顔を出すようにするとか、自分が尊敬する人に誘われたら断らないとか、そういった小さな積み重ねを全員がしたとして、それでも残る人がどういう人かというと、単にそれを続けた人ではないか、と思うんです。

僕が20代のころに出会って、そのときのテンションのまま何かをやり続けている人は、そのとき無名でも今はだいたい活躍していますね。

― 内沼さんが続けられた原動力は、日々の面白さでしょうか。

内沼 僕の場合はそうですね。大変だったけど、絶望することはあまりなかったから、続けられました。でも僕は、音楽は諦めたんです。大学1・2年の頃に、自分が買っている音楽と、自分が作っている音楽のどちらが好きかなって思った時に、買っているものの方が好きだった。そのことにふと気づいたときに、音楽をあきらめたんです。今になって思えば、ぼくはほとんど音楽らしい音楽をやらないうちに早々にぶつかった壁を目の前にして、簡単に方向を変えてしまったのですが、実際にミュージシャンになる人は、そういう壁に何度ぶつかっても越えるということをやり続けた人だと思います。

一つのことをそれなりに続けて、人に見せる機会を何度もつくっていると、知ってくれる人が少しずつ増えていって、その人たちの誰かが何かを依頼してくれたりして、最初はお金にはならなくても、名前は外に出て行く。そういうことが重なって、重なって、何かになるんじゃないですかね。

「ワクワクに寄り添っていきたい」「人の役に立ちたい」

―続いて、今後の展望についてお聞かせいただきたいです。内沼さんは「本の未来」に関して今後どういうことをされていきたいですか。

内沼 僕は、本の未来をこうしていきたいというのはあまりなくて。単にワクワクしながら寄り添ってやっていきたいという感じですね。自分は出版業界の中で、半歩先ぐらいを見ながらいろいろやっていきたいなと思っています。僕の理想の未来を作ろうというよりは、いろんな人の役に立っていきたいなという感じです。

―「ワクワクしながら寄り添っていきたい」「人の役に立っていきたい」とのことですが、お仕事をされる際に大切にされることは、やはりそういったことでしょうか。

内沼 まず僕にとっては「ワクワクしながら寄り添う」ということと、「人の役に立つ」ということとは、あまり違いがないがないですね。クライアントワークに関しても、僕の仕事を見て依頼をしてくれるので、面白そうと思えるものが多いんです。最初は雑多な何でも屋という感じでしたが、やっていくことがどんどん積み重なっていくと、自分のやった仕事を知ってもらえるようになってきて、そうするとクライアントから求められるインパクトや難易度も大きくなってきて、いただく仕事も面白くなってくる。だから、頼まれる仕事も、いまはありがたいことに「それは超難しいけど、超やりたいです」という仕事が増えたという感じです。

とはいえ、どれだけ派手に見える仕事であっても、9割ぐらいは地味な作業です。だけど、アウトプットするときや、そのプロセスのいろいろなところで、これはやる意味がある、という実感を持てる時にやりがいを感じますね。

好きなことを仕事にすべきか、趣味にすべきか

―内沼さんは「本」というご自身の好きな分野でお仕事をされていますよね。好きな分野でお仕事をすることの難しさはどのようなところにあると思いますか。

内沼 「好きな分野」という時に、その分野の中の特定の部分しか好きじゃないという場合は、仕事にすると辛くなることが多いと思います。例えば、「音楽が好きです」という人にも、「どんな音楽でも好きになれます」というタイプと「パンクが死ぬほど好きです」というタイプがいて、前者の音楽好きは音楽業界に行っても楽しいと思いますが、後者は音楽業界に行くと辛い思いをする可能性のほうが高い。まずは食べていくための仕事とは切り離して、個人的な活動に留めておくほうが幸せだと思います。どうしてもパンクだけで食べていきたいのであれば、その個人的な活動で知られるようになって、それなりの副収入が得られるようになってから独立すると決めたほうがいいです。2足の草鞋を履くのは大変ですが、大抵のことは、それひとつで食べていくのはもっと大変です。

厳しいようですが、働きながらある程度のところまでやるだけの情熱がない人は、おそらく最初からそれ一本でやっても食べていけないのではないか、と思います。

僕の場合は前者のタイプで、「本」というもの全体にすごく関心があるから、たとえいち読者としてはどんなにくだらないと感じる本でも、それがどういうメカニズムで売れているのかを考えたりするのが好きなんです。どんなにそれまで関心のなかった分野の本屋をディレクションしてくれという仕事であっても、どうすれば成立するか、どうすればそこにいる人たちに手に取ってもらえるかということを考えるのが楽しい。だから、全く苦じゃないんですね。しかもやっているうちに結局、その分野にも関心を持つようになっていく。

とはいえ、どちらのタイプの人であっても、好きな分野で「生きていく」ことは魅力的ですから、ぜひ挑戦していただきたいです。自分が本当に好きだなと思えることがあることは、それ自体が才能です。それに関わり続けるということは、その人の人生を豊かにするばかりでなく、その分野自体を豊かにします。なので、たとえその分野を「食べていく」仕事にすることが難しくても、お金を稼ぐ以外の時間を使って本気で取り組んで「生きていく」ことができる人は、絶対にやったほうがいいんですよ。そうした活動は、誰かには「アマチュア」だとか「趣味」だとか「遊び」だとか言われてしまうかもしれないけれど、本気でやっていると、逆にその分野でお金をもらっている「プロ」と呼ばれる人には決してできない領域にたどり着きます。やり続けていたら、お金をもらっているか否かとは関係なく、その分野に影響を与えられるんです。そうなれればもはや趣味や遊びではなく、その分野で「生きていく」夢が叶っていますよね。

―「一橋=産業界・大手企業のビジネスマン」みたいな風潮に対して、内沼さんはどう思われますか。

内沼 もしいま大学にいて、その風潮が合わないと感じている人には、その波に乗る必要はないよ、と言いたいです。とはいえ、どこかの会社には一度入るのもいいと思います。僕も最初入った会社には2ヶ月半しかいなかったけど、入らないよりは絶対入ってよかったと思っています。これは一般論ですが、もし大して何にも興味を持てないなら、半端な取捨選択をしないで、とにかく一番大手の、よく知られた会社に行っておいた方がいいと思います。結局、そのあと行きたい方向が見つかったときに、そちらに進むのが楽なので。

あとはギャップがある方が面白くなれるというのもあります。その人が今やっていることは個性的なんだけど、最初に入った会社はお堅いところだったというのは、単にプロフィール上も面白いじゃないですか。例えば、単にずっと小説を書いていて小説家になりましたというよりも、外資系の金融機関に入って数年法人営業を経た後に小説家になりましたというほうが、プロフィール的には目を引きますよね。表面的な話に聞こえるかもしれませんが、実際にその人にしかない経験を積んでいるぶん、オリジナリティが出やすいと思います。

でも自分のやりたいことが別にある状態で入社した場合には、染まりやすい人は簡単に会社に染まってしまうから、常に自分をチェックすることが必要ですね。自分はいつか小説家になるつもりで金融機関に入ったとしても、仕事が面白くなってきたり人間関係ができてきたりすると、うっかりその会社の人らしくなってしまう。本人が良ければそれでもいいのですが、志高く続けていきたい場合は、最初の気持ちを忘れずにいられるような本や場所、仲間をつくっておいて、自分にチェックをかけた方がいいかなと思います。

あともうひとつ言っておきたいのは、僕のような一橋っぽくない、道を外れた仕事をしている人間でさえ、一橋大卒のブランドが信頼に代わったり、同級生の力に大きく助けられたりする瞬間があるということです。一橋っぽい道には進まなそうだという自覚がある人も、大学で素晴らしい研究をしてくれている人や、有名企業に就職して活躍してくれている人、一世を風靡するベンチャーを立ち上げた人のおかげでそのブランド力が維持され、自分の信頼につながるのだということは、忘れないでいたほうがよいと思います。また、一橋っぽくない学生であればあるほど、それぞれの同級生が進む道を「自分とは関係ない」と思いがちだと思いますが、仕事というのは、学生が想像している以上にいろんなところで繋がっています。同級生の存在は、大切にしましょう。

 

―最後に、一橋生へのメッセージをお願いします。

内沼 学生時代の時間は有限なので、自分が「しょうもないな」って思うことには、時間を使うのをやめましょう、ということでしょうか。ただ流れていくだけの時間は、なるべく過ごさない方がいいですね。けれど「無駄な時間を過ごすな」というのとはちょっと違います。大学生のうちに効率や成果を求めても、結局大したことはできないので。むしろ、社会人から見たら無駄に見えるプロセスにこそ、学生時代にしか本気で取り組むことができないので、積極的な「無駄な時間」はどんどん使ったほうがいい。「大学生の時はすごくぼんやりしていたけど、社会に出たら活躍する」っていう人はあまりいませんが、かといって、「大学生の時に成果を出していないと、社会に出ても活躍できない」ということも絶対にないです。何の成果も出せなくても、無駄が多くてもいいから、たくさん動いていろんな経験をしておくのがいいと思います。

それに関連して、大事なのは「まずはやってみる」ということです。真面目に勉強してきた大学生ほど「教科書を読んでから問題を解く」やり方に慣れてしまっているから、たとえば「いつか雑誌を作りたい」と思っていたとしても、「まず編集のノウハウを学んでから作ろう」と考えてしまう。けれど、何より一番学べるのは「まずはやってみる」ことなんです。今の自分ができる範囲内で、どんなにダサくてもいいから、最大限のことを本気でやってみる。そうすると「何ができないか」がわかる。それはカッコ悪くて、苦しいことです。けれどアルバイトや弟子入りをする前に、まずはさっさと1冊つくったほうがいい。1冊つくったら、少しだけプロの現場を覗いて、またすぐに2冊目を作る。2冊目もまだダサいけれど、1冊目よりは少しましになっている。ここで「やっぱり編集じゃないな」と思えば、さっさと諦めて次に行く。より面白くなってきたようなら、3冊目4冊目とどんどん作る。学生のうちはそういうのを繰り返すほうがいい。「何ができないか」を経験的に知ることはとても大事。考えていないで、とにかくやる方が、いいと思いますね。

 

―ありがとうございました!!


内沼晋太郎さんは、一橋祭3日目に一橋読書会主催の講演会に登壇されます。

『本の仕事で食べていけるようになるまでの話』

【日時】11月26日(日)14:30~15:30

【場所】301教室

講演会終了後(15:30以降)に内沼さんとの相談会も開催されるとのことです。

記事を読んで、内沼さんのお話をもっと聞きたいと思った方、出版・メディア志望、就職以外の道を希望している方など、ぜひご参加ください!

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