「意識高い系」を世に広めた常見陽平が、「就活強者」一橋生について語る 【千葉商科大学専任講師 常見陽平 前編】

「意識高い系」って聞いたことある人も多いのではないでしょうか?
実は、この言葉を世に広めたのは、一橋OBで千葉商科大学専任講師の常見陽平さん。
今回は、就職、採用のジャーナリストとしても活躍される常見さんに、一橋生のキャリアについて語っていただきました。

キャプテンズ・オブ・インダストリーを語る

ー今日はよろしくお願いします。世間から見ると一橋生は「就活強者」で、総合商社やメガバンクに入社する人も比較的多いです。でも、いま周りでは「汎用的なスキルを持った人材になれ」「キャプテンズ・オブ・インダストリーとしての自覚を持ち、もっと新しい産業領域にも目を向けろ」といったことをよく耳にします。このような状況の中で、一橋生は各々の進路をどのように考えればいいのでしょうか?

常見 おっしゃる通り、キャプテンズ・オブ・インダストリーの認識は大事だと思います。僕の学部時代の指導教官であった竹内弘高先生(現:ハーバード大学教授)は、講義の中でキャプテンズ・オブ・インダストリーを連呼していました。ちなみに彼との出会いがきっかけで僕は社会学部から商学部に転学部しました。在学当時は他の教員達もかなり口すっぱくキャプテンズ・オブ・インダストリーと言っていました。ただ、個人個人がキャプテンズ・オブ・インダストリーを背負いこみすぎることもないと思います。

ーなるほど。

常見 産業の話をすると、政府は次の成長戦略としてIOTとか第4次産業革命などと言っていますが、それで日本が必ずしも世界で勝てるとは限りません。雇用の流動化による成長産業へのヒトの流入は大事だとされています。ここで立ち止まって考えたいです。新しい産業、レガシーな産業は果たして定義できるのでしょうか?
僕が20年前に就活したときは「商社冬の時代」と言われていました。しかし、貿易から事業投資に舵を切って、過去最高益をあげています。だから成熟業界が悪いとは思いません。その中でもイノベーションは起こるわけで、「新興産業に就職するか否か」で「一橋生が優れているかどうか」を判断するのはナンセンスだと思います。
逆に今から、規制緩和で変化が激しい電力業界に飛び込むとか、あえて公務員になって「役人の世界に革命を起こす」というような進路選択をしても良いと思います。僕がいるモノ書き業界もインダストリー論から言うならば古いけれども、自分がやっていることには誇りをもっています。
まとめると、キャプテンズ・オブ・インダストリーは良いけど、それは単に新しい業界にいくか否かではないということです。
答えになっていますかね?

ーあ、はい。

一橋生よ、目の前の世界を見よう

常見 君たちが聞きたい事をどんどんきいて!

ー分かりました(笑)現在強い産業が40年後にあるかどうか分からない、みたいな話はどうですか?

常見 人間は少なくとも産業革命の時代から機会と戦い共存してきました。雇用や労働のルールの変化は起こり続けてきました。その中で、新しい仕事は生まれています。例えば自動車産業。今後自動車そのものはなくなるかもしれないけれど、移動手段は人間に必要なわけだし、自動車の会社はそこで新しい事業を生み出すかもしれません。さらに言えば、自動車の会社は住宅・金融といった他の領域にも進出しています。そういった意味で産業や企業は常に進化・変革していくし、○年後に○○がなくなるみたいな不安よりは目の前の世界を見ようよって僕は思います。
大切なのは変化に気づけるかどうかということ。気づいたら社会やルールが変わってたなんてこともありますよね。だから変化の時期を模索すること、すなわち「今までと、今の社会をしっかり見て考える」ということは大事です。

ーこれまで何が起こってきていて、現実で何が起こっているのかを知った上で、今の問題に向き合えということですね。

常見 「一橋の学生よ、とにかく新しい世界に飛び込め」って言うと若者からの共感は得る。だけども、僕は「それっていつやるの?今なの?」って問いたいですね。
たいていの一橋生はプログラミングもできないし、ゼミはアカデミックなことを学んでいるわけだし。この状況を考慮すると、大きな仕事を若手にも振るトレンドが強くなっている今の大企業に就職するのは、むしろ合理的じゃないかと思うのです。

ー僕がHITPORTで活動を始めたのは、「就活がゴール」になる卒業後の進路の選び方って問題じゃないかと思ったことがきっかけなんですけど、それについてはどうお考えですか?

常見 僕はそれが問題だと思いません。人間は短期的な目標がないと頑張れないから、まずは商社の内定を取るという考えの人を否定してはいけません。その過程で学ぶかもしれないわけですから。ただ一つ言えるのは、一橋生は過大評価されているということ。一橋には偏差値とか入試の難易度などでラベルが貼られている。社会にでると、高い基礎学力を持っている人材として期待されます。しかも一学年1000人弱というレア感もある。やや過大評価されているんじゃないかと、意識したほうがいいとは思いますね。

働き方評論家が唱える新入社員のあり方

ー新卒で入社した後に、意識しなきゃいけないことってなんでしょうか?

常見 昨今、労働問題が世間で騒がれていますが、前提として「自分の体と心を守る」ということは大事です。「この仕事は果たしてまともなのか?」と考える。たとえ、大学時代に能力を高く評価されていた人でも、会社という環境は全然異なりますし、精神的、身体的に追い込まれることはあるでしょう。自分の体と心は大事にするよう、気をつけた方がいいと思います。
一方で矛盾するようだけども、仕事にまみれることもまた大事だと思う。仕事にまみれることで、今までにない武器を身につけるといったところでしょうか。僕も入社2年目までは死に物狂いで働いてた時期がありました。やってみると面白かった。長時間労働の最たるものでしたけど(笑)仕事にまみれたから見えた世界はありました。その時期に習熟できたことは多かったと振り返ってみて思います。

ー「仕事にまみれる」って話で言うと、下積みが大事かどうかについては、常見さんはどうお考えですか?

常見 それは難しい問題だね、「下積みとは何か」というところで。芸人さんや経営者みたいな人は下積みも死ぬほどやれと言いますが、それを一般の会社で働く人全員に押し付けるのは違うのかなと思います。
ただ、下積みでも一旦やってみると、自分に向いていたりして武器が増えることもある。大学時代にプレゼンやインターンで強かった人でも、会社の仕事は全然違うものです。プレゼンや案件を一つ通すにしても、ものすごく難しい場合がある。「なんだこの人は」って思うような上司からも学ぶ事もある。全てを否定するのはよくないかな。コンプライアンスにあまりに反するとか、死ぬレベルのことをやっているのはおかしいけれど、その仕事が行なわれているのには何らかの合理性があるんじゃないかなと思います。個人的には、リクルート時代に当時全く希望していなかった営業職を通して、案件の進め方や根回しの仕方、「企業はこういう時にお金が動くんだ」とかいろいろ学びましたね。

ー「目の前の仕事に追われて、やりたいことができない」という社会人の悩みについてはどうお考えですか?

常見 「やりたいこと」って本当にやりたいことなのか、と問いたいですね。
その悩みは、幼い頃に、欲しいおもちゃをねだっていたのと同じような気がします。欲しいおもちゃって自分に向いてないとか、動きが単調ですぐ飽きちゃうとか。結構それに近いと思っていて、「やりたいこと」と、「できること」「向いていること」・「期待されていること」の重なりを考えていくわけですが、必ずしも一致しない。僕は「できること」「向いていること」や「期待されていること」に目を向ける方が、人生の近道だと思います。そんなに個人個人、やりたいこととか向いてることって明確なのか、と考えると意外とそうでもないと思う。みんな明確である風に言うけど。

ーそうですね。それを社会出てない段階で、決めつけたり短略的に考えるのは危ないと?

常見 とはいえ、明らかに向いてないというのは大変だし、そういった意味で企業選びって慎重にしなきゃいけないんです。合わない仕事に配属されるとか、仕事はあってても上司と合わないみたいな話もあるわけで。その切り分けは難しいと思います。