アート・カルチャー×会計 ”協働”で広がる、会計士の可能性 公認会計士・税理士、Yamauchi Accounting Office 代表、Arts and Law 代表理事 山内真理 後編

編では、公認会計士の山内さんに会計事務所立ち上げまでの経緯をお聞きしました。後編では、アート・カルチャーの領域に関わるにあたって抱く思いを掘り下げて語っていただきます。(前編はこちら)

ー山内さんが思う、アーティストやクリエイターに対して会計士が果たせる役割とは何ですか?

山内 アートの分野では、元々お金の話がタブー視される伝統があったり、経営や会計とは対局にある世界と思われてきたところもありました。クリエイターも文化経営者も面白いものを生み出していきたいわけで、アウトプットの品質にはけして妥協したくない。でも、よいものを創るためには制作原資を絶えず確保できるための事業の組み立てがいる。より多くの人に届けるための流通・波及のための工夫もいる。事業全体が持続可能であることがまた大切なのです。一方、単に売上が上がれば、黒字が増えれば満足というわけではない。どのようなものを生み出せたか、文化と経済の微妙なバランスの中で日々サバイブしている多様なプレーヤーのグラデーションによって、社会が面白くなっているのだと考えています。

会計士の役割の一つは、多くのプレーヤーが経営感覚、会計感覚を高め、社会的交渉力を持つ手助けをすることだと思います。あらゆる産業はもっと文化的になり得る。それは社会をより豊かにすることに繋がると思っています。

ー一口に会計士と言っても、活かす分野次第でもっと広範な働き方ができそうですね。

山内 会計の測定機能はAIなどに代替されると言われて久しいですが、会計は人が価値を作っていくことに寄り添う普遍的な道具ですからね。その道具を扱うというところを起点に、人に役立つことを考えていくと、やれることは沢山ありそうですね。会計士には資格上独占業務もありますが、資格が直接生きることだけにこだわる必要はないでしょう。会計士を軸に様々な分野にピポットしていくと、それぞれにインパクトのある活動が展開できるのではないでしょうか。

ー今まで何度かお話に出てきた、山内さんが影響を受けたというArts and Lawの活動について詳しく教えていただけますか?

山内  Arts and Lawは、アーティストやクリエイターの支援を行う非営利団体です。アーティスト・クリエイターは表現する上で法律などの制約を受けることがありますが、例えばそのような際の相談先として従来法律事務所は敷居が高かった。そのような垣根を超え、フラットに法律家とアーティスト・クリエイターがつながれるきっかけを作ろう、そうして生まれたのがこの団体です。

ーArts and Lawで活動して得られたことはありますか?

山内 たとえば、専門性が異なる人同士が連携することで立体的な視点が得られると思います。一つのプロジェクトが前に進むための障害を協働してスピーディーに取り除ける機会を創りやすいのはありがたく思っていますね。


ー山内さんが担当なさっている、クリエイティブな領域での仕事について詳しく教えてください。

山内 一番多いのはやはりタックスのニーズですね。税理士は例えるなら主治医のようなものです。税務顧問の仕事を通じて、会計数値を使って事業の振り返り機会を定期的に提供し、伴走する。事業は、文化的に面白い、あるいは尖った魅力的なものであっても、産業/社会におけるインパクトを生むことを考えなければ、社会への波及はより限定的です。中心ではディープに楽しんでいる人たちがいたとしても、小さなサークルの中だけかもしれません。より普遍的に社会に広げていくために大事なことは、ちゃんと産業/市場に接続していくことであったりします。また、一方で、小さな尖った存在がその存在感を薄めずに、生き抜くためにはどうすればよいのか、あれこれ一緒に考えます。最近はまず新しい事業を組み立てるという時に、組織や事業の枠組み作りからご相談頂くのがとても楽しいですね。

ー仕事のやりがいはどのような点で感じられますか?

山内 ありきたりですが、サポートしている同時代のクリエイターや事業体が成長していくこと、合わせて自分たちの事業も成長していくことでしょうか。日々変化していこうと思えるだけの刺激がそこら中に転がっているところですね。

ー山内さんの会計事務所で働く芸術大学、文化芸術団体出身の方々は、どのような経緯で会計事務所で働くことにしたのでしょうか?

山内 経緯は一人ひとり違って様々ですが、ちょっと風変わりな事務所であることに魅力を感じて入ってきてくれる人、ミッションに共感して熱意を持って門を叩いてくれる人、より専門性の高いスキルを身に付けたいという動機もありますね。

ー最後に一橋生へのメッセージをお願いします。

山内 何か一つの方向を明確に定めないと前に進めないというわけではないですし、一度定めたらそれだけがゴールというわけでもない時代だと思うんですね。人が緩やかに接続して色々なトライをすることが出来る、そういった風通しの良さが沢山のチャンスを生む時代だと思います。とりあえず動いて経験を積んでみる、そこで得た視点でまた次の経験を掴みに行く、というようなやり方もいいと思います。自分にあった役割を見つけるには、試行錯誤してみるのが結局早そうです。

また特に会計士は、働き方自体を比較的柔軟に設計できる仕事だと思います。今後、専門性の掛け合わせで新たな価値を生み出すことの重要性が増していくと思いますから、そうした働き方の設計も工夫の余地が沢山あると思います。


 

ー本日は貴重なお話、ありがとうございました。とても興味深く、今後の参考になるキャリア観でした。